「以上で、今回の任務は完了となる。ご苦労だった。」 「それでは、失礼いたします」 任務完了報告を終え、指揮官から労いの言葉を受け取ると、フェイトは一礼をして廊下へと向かった。 そばには同じく任務に参加していた、シグナムが歩いている。 良く音の響く廊下をしばらくお互いに無言のまま歩いて、ふと、フェイトはシグナムを振り向いた。 すると、まっすぐな視線とぶつかった。 シグナムの目線は、けれど、すっとフェイトの足元へと向かう。 「足を引きずっているようだが、怪我をしたのか、テスタロッサ」 いつもどおりの口調で訊ねられ、フェイトは戸惑う。 「いえ、ちょっと、くじいたかなっていう程度ですから、大丈夫ですよ」 慌てて笑って見せると、シグナムが眉根を寄せて見せた。 彼女の主であるはやては、かつて足が悪かった。 そのために足の怪我などには敏感なのかもしれない…とフェイトは心の隅で思ったが、 それとは口に出さずシグナムの速度に合わせて歩く。 足はと言えば、ズキズキとした痛みはあるものの酷いわけではないし、歩けないなどということもない。 だから、適度に冷やしておけばなんとかなるだろうとも判断できた。 そういえば、こうしてシグナムと話ながら管理局を歩くのは何度目だろう。 同じ任務に参加することが多く、一緒に廊下を歩くことも多々あった。 けれど、よく考えてみるとシグナムと隣を歩いていることに、不思議だとも思えた。 出会った時点では、こんな風に一緒に任務に出ることがあるなど考えもしなかったからだろうか。 元はといえば、シグナムたちは主の命を守るために、命を賭した戦いの中で知り合った敵同士。 今はといえば、多くの世界、多くの命を守るために、背中を預けて共に戦える戦友。 それでありながら、お互いの力量良く知り、お互いに技量を極めあえる相手。 だからこそ、シグナムにはあまり心配はされたいとは思えない。 変わらない彼女と、変わっていく私。 それでも、常に対等でありたいと思うから。 「そうか。しかし、歩きづらそうだな」 突然歩みを止めたシグナムに、驚いてフェイトも足を止める。 さらりとシグナムの髪が揺れたのが見えた気がした。 「どうしたんですか、シグナム…っ?!」 シグナムの腕が背中にあたったかと思うと、そのままの勢いで抱き上げられてしまった。 ふわりと足元に感じる浮遊感。 頼れると分かっている気配。 ひざの裏側にも腕を入れられ、抱き上げられていることをなぜか冷静に見てフェイトは思う。 これは、世に言うお姫様だっことかいうもの…? えぇとそれは、こいびとどうしとかがやるものでは…。 「魔法の使用が自由ならば飛べばいいのだろうが、局内では生憎と禁止だしな」 「そ、そう、ですね…?」 いきなりのことに、まともな言葉が返せず、なんて返したら…と戸惑うフェイトに向かい、 「このほうが楽だろう?」 毅然として言われて、思わず頷いた。 確かに足の痛みは感じないような気がする。 だが、周りを通りがかった局員たちからの視線を感じた。 な、なんで私を見るのだろう。 そう、か、シグナムがもてるからかも…? 後々はやてにお姫様だっこで局内を歩いたことが発覚し散々かまわれて、このときどうして了承してしまったのだろうと へこむことにはなるのだが、それはまた別の話。 「あ、…ありがとうございます。でも、その、私重いですし、あの、歩けますし、全力疾走だって…!」 何を言っているのか、いまいち分からなくなってきたフェイトの傍で、シグナムのふっと笑う声が聞こえた気がした。