休憩所の椅子に、フェイトは腰掛けた。 昼間の、順調な巡回任務中であるアースラの休憩所はとても静かだ。 運動した直後の、汗ばんだ体にはひんやりとした椅子が心地よかった。ヴォルケンリッターの将、炎の魔剣を自在に操る剣士は実に強敵だ。 知り合ってから早数ヶ月、何度となく手合わせをしてはいるが、結果は拮抗している。 どんなに練った新しい戦略を用いて勝ったとしても次には確実に対策を取られてしまう。 なんて、なんて強さなんだろう、とつい考えさせられる。 ふと、目の前に出されたスポーツドリンクに視線が止まった。 「今日もいい手合わせだった。さすがだな、テスタロッサ」 模擬戦の勝者、シグナムがドリンクを両手に持ち、片方を差し出していた。びっしりと汗をかいた缶を受け取って、シグナムを見つめる。 「ありがとうございます、シグナム」 立ったまま、壁にもたれ掛かるシグナムは、ぐいと缶の中身を口にした。 「いつもながら、手合わせする度に強くなるな」 楽しげな瞳でシグナムは言う。 けれど、フェイトは手にした缶を両手で包むように握り、視線を缶に落として呟いた。 「そんなことはないんです。新しい手を考えても、同じ手では次にはシグナムには負けてしまいますから」 もっと、――もっと強くなりたい。 二度と自分を見失わないように…。 自分は自分だと信じられるように。 誰かをこの力で救えるように。 「何を言っている。」 シグナムの声だった。 その落ち着き払った声は、フェイトの耳にはっきりと響く。 「弱き者は、上を目指したりはしない。現状に甘えるのみだ。先を目指す者を弱者と言う者はいないぞ」 はっと顔をあげると、シグナムは笑っていた。 その笑顔にフェイトも微笑んで、立ち上がる。 「また、手合わせをお願いします、シグナム」 手にはしっかりと自分のデバイスである、バルディッシュを握り締める。 きっと、もっと強くなれる。 惑うことなく、自分の道を進めるように。 シグナムは片目を閉じて、答えた。 「こちらこそ頼む、テスタロッサ」 そのまま二人はまた、訓練室へと足を向けた。