わざわざ用事を作ってまで立ち寄ったアースラの食堂にクロノがいると聞いて、なのはは食堂に向かっていた。 ドアを開け、見渡さずとも空いた食堂内に、フェイトと話し込むクロノの姿を見つけて立ち止まった。 食堂の奥に居る二人の声は聞こえるけれど、話している内容まではなのはの耳には届かない。 二人はしばらく剣呑な雰囲気で話していたが、ふいに笑い声が混じった。 ただ終始密談するような話し方で、親密そうにも見える雰囲気に気圧されて、なのはは後ずさりする。 けれど、すぐに手を強く握りしめ、視線をあげた。 「頑張らなきゃ」 なのはは小さく自分に応援を送ると、一歩一歩踏み出して二人の方へ向かう。 手足が同時にでているなんてことは、なのはにとっては瑣末な問題だ。 「なんのお話してるの?」 談義している二人に近寄って、できる限りの笑顔で声をかけると、クロノとフェイトが会話を止めた。 震えてしまう声を抑えきれなかったことに、なのはは意気消沈する。 そして、あまりにも綺麗に言葉が途切れて、なのはは躊躇った。 二人の視線がなのはに集中し、それからフェイトの困ったような笑顔がなのはに向けられた。 「なんでもないよ、なのは」 そのすぐ横にいるクロノはむっとしたような顔だ。 「そう、なんだ」 不機嫌そうなクロノの顔を見つめ、なのはは無理やり自分を納得させるように頷く。 怒ったような顔をクロノにされるのは嫌だった。 なのはがここまできたのは、クロノと少しでも話がしたいと思ったからで怒らせるためではない。 「すまないが、任務の話なんだ」 会いたいと思っていた人に、低い声で咎めるように言われ、なのはは俯きがちに頷いた。 「そうだよね。お仕事の邪魔しちゃってごめんね」 謝罪の言葉だけを口にして、視線を背ける。 なのはは後ろは振り向かなかった。 振り向いたら、涙が出てしまいそうだった。 慌しく食堂を後にして、それからなのははアースラ内にいるはずのはやてを探す。 クロノに嫌われているのではないか。 フェイトのことをクロノは好きなのではないか。 そんな考えが頭の中を巡る。 クロノを好きだと気づいたのは、最近のことだった。 出会ってから、真面目で優しい彼が気になっていたのは事実だが、ゆっくりと話をする機会があった時に自覚した。 クロノと話をすると安心できて、とても楽しい。 胸が高鳴って、止まらなかった。 けれど、それ以来クロノは会う度に忙しい時期に当たるらしく、どうにも話ができない。 フェイトとはよく話をしているのは見かけるし、話した内容も聞いているのに、だ。 クロノに嫌われ、避けられているのではないか。 話かけるのさえも不快に思われているのではないかという不安が沸いた。 よろけながらもアースラを歩き回った。 そして疲弊しきった頃、休憩所でジュースを飲むはやてを漸く見つけて、なのはは一目散に駆け寄った。 「はーやーてーちゃーん!」 はやてから悲鳴が上がるのも気にせず、精一杯はやてを抱きしめる。 「ど、どうしたん、なのはちゃん!」 抱きついた途端に自然とこぼれ落ちる涙を堪えられず、なのはは泣き出した。 はやてが子供をあやすかのように、そんななのはの背中を撫でる。 「う…ひっく」 どれだけの時間そうしていただろうか。 背を優しく撫でる手になのはが落ち着いたところで、はやてがもう一度同じ問いを繰り返した。 「どしたん?いきなり泣くからびっくりしたわー」 はやてから向けられた心配そうな微笑みに、なのはは再び泣き出しそうになる。 強くはやてに抱きつき、この親友に相談を聞いて貰おうと思った。 話をどう切り出せばいいのか悩んでいると、はやてが笑う。 「クロノ君のことやろ?」 何も言い出さない内に断言され、なのはは言葉に詰まった。 「なのはちゃんは分かりやすすぎやから」 はやてに言わせると、そうなるらしい。 見ていて分かると、いろいろ事細かに理由を挙げられた。 「クロノ君と、お話したいなって思うんだけど、緊張しちゃって」 俯いてなのはがはやてに打ち明けると、はやては年齢に見合わないほど艶やかに微笑んだ。 「大丈夫、私も応援しとるから!」 クロノの傍に近寄ると、どうしても声が出せなくなる。 話をしていても、顔を見られなくなる。 きっと、クロノにも気づかれてしまっているのだろうとなのはは思って肩を落とした。 お話をしたくて、しようとすると声が震える。 近寄りたくて、近寄ると緊張して目が合わせられない。 顔が見られない。 これでも、大丈夫なのだろうかとなのはは思う。 胸がぎゅっと締め付けられるような感覚を味わって、なのははまた泣きそうになった。