仕事が休みの日、偶然ではあるがなのはと休みが重なることが多かった。 いつだったか忘れたが、任務の合間になのはと話していた時に、彼女に相談されたのがきっかけだった。 「お仕事でミッドチルダに来ることが多くなって、いろいろ見てみたいって思うの。 だけど、フェイトちゃんもはやてちゃんもこの世界のこと知らないんだよね。」 観光してみたい、ということなのだろうが、確かにフェイトはミッドチルダ出身だが育った環境のせいで世間を知らない。 案内など到底無理だろう。 はやてはなのは同様に知るはずがない。 「クロノ君、良かったらなんだけど…案内してくれないかな?」 小首を傾げて問いかけられた。 なのはの髪が揺れ、肩にかかる。 「どんな場所に行きたいんだ」 問い返すと、なのはが微笑んだ。 頬に朱が差すのが見え、ついつられて笑いそうになった。 「ありがとう! クロノ君のおすすめってある?」 しばし考えてから、何も思いつかないことに愕然とする。 今まで自分の世界のことに、あまり興味を持ったことがなかったからだ。 僕自身案内には向いていないなと思いながら、なのはに向き直る。 請け負ってしまったのだから、頼まれたことくらいこなしたい。 ユーノの方が適任だとは思うのだが、理由もなくあのフェレットには任せたくなかった。 「どことは特にないんだが、有名なところは調べておこう。それから決めてもいいだろう?」 知らないというのは困るなと、我ながら思いながら算段をする。 さて誰に相談すべきか。 結局、情報誌やらあらゆる知人の紹介やらを調べた上で、いくつか選んだ場所からなのはが気に入った所に行くことになった。 そんな風に何度か出かけて気づいたのは、彼女といるととても落ち着くということ。 ずっと、二人でいたいと思えたということ。 ミッドチルダ郊外の公園は、予想していなかったのだが、なのはが魔法の練習をする丘にとても良く似ていた。 ひとしきり驚いてから微笑みを浮かべた彼女の横で、ぼんやりと風景を眺める。 なのはが家から淹れてきてくれたコーヒーを受け取り、一息ついた。 顔に当たる湯気が心地いい。 「また、来たいね」 ゆっくりとした口調で言うなのはに、クロノは頷いた。 彼女となら、ほとんど会話の無い状態でも落ち着いていられる。 傍にいて、ただ微笑んでいてくれるなのはに、安心した。 仕事のことも忘れて、彼女と笑いあっていたいと思った。 「ずっと、こうしていられればいいんだが」 不意に口をついて出た言葉に、なのはが振り向くのを感じて視線を向けた。 彼女の方を向くと、彼女は頬を赤く染めて俯きながらも微笑んでいた。 その様子に、心拍数が上がるのが分かる。 彼女といると、理由もないのに脈が早くなる時がある。 吹き抜ける風に舞いあげられた花弁が彼女の髪に絡まった。 「なのは、少しじっとしていてくれ」 「え?うん」 不思議そうな顔をしたなのはの髪を手で梳くと、柔らかく滑るような髪は指をすり抜けていく。 手に残った花弁は風に流され、空に消える。 「クロノ君?」 揺れる声を聞いて、自覚した。 僕は彼女を好きだ。 だからこそ一緒にいたいと感じて、そばで微笑んでくれるだけで安心する。 「なのはが、好きだ」 口を滑って出た一言に自分でも驚いた。 唐突に何を言ったんだ、自分。 心の中で狼狽しながらも、表面には出さず彼女を見ると彼女は視線を彷徨わせていた。 彼女は、僕のことをそういう対象としては見ていなかったのだろうか。 そう考えて憂鬱になりかけた頃に、なのはがこちらを向いた。 「わ、私も…好き」 風に消えてしまいそうなか細い声だったが、聞き逃しはしない。 自らの頬が緩むのを感じながら、声をかける。 「また、ここには来よう」 するとなのはも笑顔で頷いてくれた。